いのちの誕生を支える仕事「産婦人科医」。非常に責任感とやりがいのある仕事です。そんな産婦人科医ですが、キャリアについて、様々な理由で悩み、転職を考えているという方も少ないないでしょう。今回は産婦人科医の転職について、転職マーケットの動向や具体的な求人内容、転職のコツについて、実体験を交えご紹介します。現在産婦人科医として活躍されていて転職を検討されている方だけでなく、これから産婦人科医を目指すという方にも必見の内容です。是非チェックしてください。
産婦人科の医師転職事情は?
まずは産婦人科医の就業環境について知っておく必要があります。平成31年に日本産婦人科医会が『産婦人科医療体制と就労環境 〜施設情報調査2018より〜』 にて、産婦人科医の就労環境についての調査結果を発表しました。
ポイントは3点です。
(1)産婦人科専攻の入学定員は増加したているが、産婦人科を選択する医師の割合は増加しておらず、分娩施設の常勤産婦人科医師は減少している。
(2)周産期センターに常勤医師が集中しており、診療所などでは医師数が減少している。
(3)宿直を除く1週間の平均勤務時間は,総合周産期(49.2時間) と大学(49.4時間)で長い傾向にあった
産婦人科医は、入学定員を増やし、担い手をである医師数を増やしていきたい意向です。しかし、そもそもの数が少ないため、一人の医師に対する負担が大きいこと。その負担の拡大に伴い、就業環境が悪化することが懸念され、人材不足を払拭できていない状況です。
その一方で、日本の周産期医療は世界でも有数の医療レベルがあります。そのデータは厚生労働省の『周産期医療体制の現状について』で公表されています。高い技術を身につけることができる風土が備わっています。
加えて、興味深いデータも公表されています。独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると下記のことがわかります。
・診療科目別 平均年収において、産婦人科は脳神経外科に次ぐ2番目の年収の高さ
・診療科目別・満足度ランキングでは麻酔科に次ぐ2番目の満足度の高さ
以上のことから、医師の不足感があり、それに伴い就労環境が悪化している環境はあるものの、それぞれの産婦人科医は職場環境に不満を抱いていないということが言えるのではないでしょうか。
ここまでで産婦人科医の就業環境を理解することができました。しかし全ての産婦人科医が現状に満足しているわけではありません。転職している産婦人科の医師も多くいます。次に産婦人科医の転職事情について考察していきましょう。
産婦人科医のよくある転職理由は以下の通りです。
(1)スキルアップ
分娩件数や分娩スタイルなど環境面の変化を求めたり、昨今ニーズが高まっている不妊治療領域を学びたいと考え、転職する医師の方は多くいます。
(2)激務のためワークライフバランス改善
日中の残業や夜間の救急対応、土日の学術関連業務などで産婦人科医のワークライフバランスは悪化しがちです。特に大学病院や周産期医療センターの場合、さらにその度合いが厳しきなります。
(3)結婚などライフステージの変化
産婦人科医は、前述している通り当直回数が多く、夜間帯の緊急オペなどもある環境です。そのため、例えば、育児のため日勤だけで働きたいなどの場合、転職を余儀なくされる場合もあります。
さまざまな理由で転職を考える産婦人科医がいます。
では具体的にどのような求人があるのでしょうか。調査していきましょう。
具体的な産婦人科医の求人は?
(1)分娩を行う医療機関への転職
産婦人科医として、いのちの誕生を支援したいと考える方におすすめの転職先です。
(2)とにかく高給与の不妊治療専門クリニックへの転職
昨今ニーズが高まる不妊治療。不妊治療の多くが保険適用外となるため、施術料金は各医療機関で設定します。そのため収入が高くなりやすい傾向にあります。スキルとしてニーズが高いかつ高収入を目指したいという方におすすめの転職先です。
(3)非常勤でも高給与の求人へ転職
月1回、週1回などでも1回あたりの単価が高い非常勤求人が目立ちます。ワークライフバランスを重視したいという方は非常勤で働くという選択肢も考えられます。
国内最大規模の医師の転職サイトm3.comで産婦人科医の求人数を検索してみると以下の求人数が出てきました。
希望エリア:東京・神奈川・千葉・埼玉エリア
常勤求人数:235件
非常勤求人数:83件
(2020年5月20日現在)
やはり、内科・外科系の求人に比べると求人数が多いわけでありません。しかし産婦人科医の求人は一定数あり、転職市場における採用ニーズがあります。産婦人科医が減少傾向にあるため、医療業界全体で主治医制を排し、週4日勤務にしたり報酬を高める医療機関が増えています。
産科・産婦人科の医師求人でチェックすべきポイントは?
産婦人科医にとって、転職先のチェックすべき事項を紹介します。大きくわけて、2つの観点があります。在籍する医療機関、施設に関係すること、採用される求人の特性に関係することの2点です。
(1)在籍する医療機関、施設に関して
・病床数:産婦人科病床の規模は要チェックです
・分娩件数:月間どの程度の分娩件数があるのか
・手術件数:帝王切開などの件数
・NICUなど併設される新生児室や小児科の設備や環境:新生児専門医がいる手厚さがあります。一方でリスクのある分娩を病院として引き受けています
・不妊治療への対応:通常の産婦人科治療以外に不妊外来を病院として対応している医療機関もあります
・分娩に対する考え:無痛分娩、フリースタイル分娩など様々な分娩の方式があり、病院によって取り組み内容が異なります
(2)採用される求人の特性に関して
・当直有無:夜間帯の業務の有無に関与します
・オンコール有無:夜間帯や休日など病院にいない際の緊急時対応をします。電話で受け、対応方法を指示します。
・業務内容:分娩対応、手術対応、病棟管理、外来業務などが考えられます
上記のように産婦人科医として考慮すべき事項が多いです。気にすべきは収入や休日だけではありません。以上の内容を、ご自身の転職理由や仕事のやりがい、逆にストレスとなる業務などを考慮して、自身に合った転職先を探しましょう。
産婦人科医の転職体験談
産婦人科医として、満足のいく転職を実現されたA医師(女性)のエピソードを紹介します。
【転職時年齢】
30代前半
【経歴】
国立大学の医学部を卒業後、卒業大学の医局に所属。同大学病院の産婦人科医として勤務。
【転職理由】
結婚を期に、仕事と家庭の両立を目指す中で、当直業務や緊急オペが負担となっていました。また、日々の業務だけでなく休日も学会に向けた研究資料の作成や勉強会への参加など、オンオフの区別さえも難しい環境でした。職場において、当直回数を減らすことや、学会への不参加というのは環境上申し出るのが不可能な状況でした。将来的には出産や育児も視野に入れていたため、直近の就業環境の改善だけでなく、今後のライフステージの変化にも対応できる職場で働きたいと考え転職を決意しました。
【転職先について】
不妊治療の治療に力を入れているクリニックへ転職しました。転職先を決めた理由は3つです。
(1)日勤のみで勤務できる。緊急対応など残業リスクがない
不妊外来のクリニックのため、治療時間が日勤帯のみで決まっていること、病院と違い緊急オペや分娩対応がないため、突発的な残業がない職場環境に惹かれました。
(2)収入アップが実現できた
日勤のみでありながら、当直をする前職よりも収入がアップしました。不妊治療のクリニックは高給与であるケースが多いです。
(3)今後もニーズの高いスキルと考えた
不妊治療の経験は、今現在もニーズの高いスキルですが、今後も継続的にニーズが高いと考えました。自分自身のスキルで不妊に悩む女性に寄り添い、治療に取り組みたいと思いました。