(転職前・転職後): 大学病院心臓血管外科→民間病院療養病院
(転職時年齢):40代前半
(転職概要):某国立大学を卒業後に、やりがいを求めて心臓血管外科の医局に入局。テレビドラマの影響もあって憧れもありました。医師1年目より緊急手術や術後ICU管理など休日も休みなく仕事を続けました。周囲の医師や看護師、コメディカルも、我々医師がそのような労働環境で働いている事が当然と思っていたと思います。夜の緊急手術も当たり前、それに対する時間外手当もありませんでした。当時は、今のような研修医制度もなく労働基準はいい加減なものでした。医師になって3~4年はほとんど無休で、アルバイトで生活していました。
また、医局人事で転勤も当たり前、関東、九州、四国の関連病院へ2,3年で移動するという状況。そのたびに引っ越し、引っ越し代も自腹です。ただ、実績のある有名大学病院の医局でしたので症例も多く、心臓血管外科専門医も同年代に比べ早く取得でき、早くに医長になる事ができたため肩書としては納得のいくものができたと思っていました。しかし、肩書は得ても仕事の忙しさに変わりは無く、逆に責任を負うことも増えたのです。心臓血管外科という、命に直結する手術をこなすため場合によっては訴訟問題に発展してしまうという危険を常に抱えておりストレスも大きかったのだと思います。毎日手術をこなし、術後ICU管理を続け、急変時には心肺蘇生を繰り返すという日々。20~30代の若いころは何とか持ちこたえられていましたが、41歳、15年目にしてうつ病にかかってしまいました。そのため心臓血管外科をあきらめざるを得なくなり、転職に至りました。
結局心臓血管外科医局を辞め内科へ転職しました。また、内科の中でも療養病棟病院を選択しました。療養病棟とは、救急や外科、一般検査から治療を行ういわゆる一般病棟とは異なります。急性期治療を終えてある程度病状が安定した慢性期の患者の長期療養を目的とし、投薬の微調整やリハビリテーションを中心に医療サービスを提供する病棟になります。入院期間の目安としては大体3か月程度。医療スタッフとしては医師、看護師以外に介護福祉士の働きも重要になり、医療だけでなく介護からの観点も必要な病棟になります。高齢化社会が進む現在とても重要な役割を担っています。
(転職したメリット):療養病棟医師へ転職した最大のメリットは、仕事時間です。現在の仕事はオンとオフがはっきりしています。心臓血管外科時代には休日なし、夜中の呼び出しが当たり前、帰宅できたとしても頻繁に起こされ十分な休息をとることはできません、昼夜無く働き詰め。たまに取れた休日でも、緊急の呼び出しがあるため病院から1時間以上かかる場所へ遊びに出ることはありませんでした。旅行など問題外でした。
現在は、9:00~17:00勤務で残業は無し。勤務日も週4日と半日、土日祝日は完全に休みです。夜勤なしで夜間に呼び出しどころか電話もかかってきません。労働環境に関しては、同じ医師なのかと思えるほどに改善しました。当然、家族と過ごす時間が増えましたし、旅行にも気兼ねなく行くことができます。
業務に関する精神的負担も大幅に減りました。入院している患者さん方の病状のためです、心臓血管外科など超急性期の経過をとる方々と異なり、病状がある程度落ち着いた患者さんが診察対象で、重篤な患者さんを受け持つことはありません。ご高齢な方、合併症の多い方もおられるため急変する危険性はありますが、あらかじめ、ご本人や家族へ病状説明し連絡を密にとっていれば問題になる事はまずありません。
給料の面ではどうかというと。正直増えました。労働時間が大幅に減ったにもかかわらず、2~3割増になっています。理由は医局人事から離れたためではないかと思います。医局関連病院では、常に医師補充が可能です。ある医師が辞めると言っても、医局からすぐ補充が来ます。そのため病院が医師確保に労力を使う必要が無いのです。それに対して、自分が現在働いている病院は医局からの医師派遣ではありませんので医師確保が必要です。そのため給料が良いのではないかと思います。
(転職したデメリット):医師としてのスキルアップが困難なことです。上記の通り病状の落ち着いた慢性期の患者さんが対象になりますので。専門性の高い症例を受け持つことはほとんどありません、。そのため、なにかしらの専門医を取得しようとしても経験を積むことは難しいと思います。
医局人事から離れたことも、今後デメリットになる事があるかもしれません。
職場で対人関係が悪くなったりして職場を変えようと考えた場合、医局に属しているのと異なり、すぐに次の職場(病院)が見つかるかどうかは分かりません。ただし、今は、医師転職支援業者が増えていること、医局自体の影響力が低下してきていることもあり比較的探しやすいのではないかとも思います。